パーツインプレッション

PARTS IMPRESSION

クランクデコンプバルブはなぜ効くのか?

2010年3月から新発売することになった「クランクデコンプバルブ」ですが、この商品がなぜ効くのか?についてを紹介しましょう。
なお、かなり長文の文章になりますが、パラパラマンガなどを挟みつつ説明してますので、気長にお付き合いください。

……さて、商品の説明に入る前に、クランクデコンプバルブを装着する箇所となる「ブローバイガス用配管」の役割から、かみ砕いて説明していきます。

 ブローバイガスとは、エンジン内のピストンが上下動をする際、気密性が追いつかずに、ピストンより下側(クランクケース)に溢れ出てしまったガスのことで、主な成分は「HC」や「炭化水素」などです。要は、気化したガソリンやエンジンオイル、燃焼後に発生する排気ガスやススなどと思ってもらえばいいでしょう。

吸気行程や排気行程の際にはほとんど発生せず、圧縮行程や燃焼行程の際に発生します。

ブローバイガスはいろいろな意味で有害で、環境や人体への影響はもちろんですが、エンジン内部にも悪影響を及ぼします。クランクケース内にブローバイガスを溜め込んでしまうと、エンジンオイルの酸化を急激に早めてしまったり、排気ガスに含まれるススや水分などで、エンジン内にスラッジを溜めたりする原因にもなります。

また、エンジンがパワフルに動くという観点からもブローバイガスの処理は非常に重要で、ピストンの下側が正圧よりも負圧の状態の方が、ピストンの上下動時のロスが少なくなります。

ちょっと余談ですけど、最後まで読んでもらうと想像できるかと思いますが、ブローバイガスを大気開放にしてしまうと「強制的に引き抜く」という効果がなくなるので、パワー的にも不利になります。

そこで、環境にもエンジンにも配慮するように、ブローバイガスは半強制的に引き抜かれるような配管が施されているのです。

ここからは、JB23型ジムニーに搭載される「K6A型ターボエンジン」を例に話を進めていきましょう。

ブローバイガスを抜くための配管用として、写真のようにカムカバーの上部2箇所にホースが用意されています。

片方は太め(赤い○で囲んでいる方)、もう片方は細めのホースで(黄色い○で囲んでいる方)、この2系統の配管を利用し、運転状況に合わせて効率よくブローバイガスをクランクケースから抜く設計になっています。

太めのホースには特に小細工等は設けておらず、カムカバーからエアエレメント~タービン間の「サクションパイプ」に配管されています。

そして細めのホースは「PCVバルブ」と呼ばれる、ブローバイガスがカムカバーから外に向けて一方通行ぎみに流れる弁を挟み(完全な一方通行ではない)、スロットルボディの後の「サージタンク」へと繋がります。

スロットル開度の少ない状況の時は、サージタンク内の圧力が負圧なので、細いホースからブローバイガスを吸い、さらに、太い側の配管はエアエレメントからのフレッシュエアを吸うことで、クランクケース内の換気をしています。

アクセル開度が大きくなった状況では、タービンが仕事を始めブーストが掛かるため、サージタンク内の圧力は正圧となり、細い側の配管にも圧力が掛かるのでPCVバルブの流路が狭まり、クランクケース内に正圧が掛かります。

その代わりに、タービンの吸い込む力により、サクションパイプ部に強い負圧が発生するので、太い側の配管からブローバイガスが引き抜かれるようになるのです。

こういった一連の流れでブローバイガスを処理しているのですが、この話には続きがあります。

例えば、分かりやすい例として、急激なエンジンブレーキを使用したとしましょう。

その瞬間、タービンの回転が急激に落ちるのですが、エアエレメントからの吸気の流れはピタリとは止められないため、負圧だったハズのタービン手前のサクションパイプ内が思い切り正圧になります。結果、正圧のフレッシュエアが太い側の配管を逆流し始めます。

もちろん、それと同時にPCVバルブが開き、サージタンク側にブローバイガスが流れ始めるのですが、クランクケース内に大なり小なりの正圧が掛かってしまいます。

また、全開走行時もPCVバルブが完全な1wayではないので、いくら太い側のホースから負圧で引き抜いたとしても、細い側の配管から正圧が掛かっていることは事実です。

さて、非常に前置きが長くなりましたが、ここでクランクデコンプバルブの登場です。

クランクケース内の圧力をなるべく負圧に、悪くても正圧にはならないようにするために「PCVバルブの配管を殺してしまい(ホース内に専用の盲栓を入れる)、さらに、太い側の配管に微量の風量でも作動する、大容量の完璧な1wayバルブを仕込む」ことで、エンジンが元気に回っている時には、サクションパイプ内の負圧を利用しブローバイガスを強制的に引き抜き、クランクケース内の圧力を負圧に保持。

アクセル開度の少ない時には、微量のブローバイガスでも反応する1wayバルブの効果で、大気圧以上にはならない状況を作ります。

もちろん、エンジンブレーキやアクセルを踏み返した時など、サクションパイプ内が正圧になってしまう際には、1wayバルブがしっかりと働き、クランクケース内を正圧にすることはありません。

その結果、低速域~高速域までエンジンがレスポンスよく吹け上がり、体感できるほどのパワーアップをします。特に、アクセルのON&OFFを繰り返すような場面や、高速域での伸びは気持ちいいレベルです。

なお、最後に装着後の注意点が3つほど。

まず1つ目は、新しい年式のエンジンの場合、ノーマルのブローバイガス配管にはクランクケース内を換気する機能がありますが、クランクデコンプバルブ装着後は、その換気が出来なくなります。運転状況によってはエンジンオイルへの負担が考えられるので、早めのオイル交換がお勧めとなります。

目安としては3000kmもしくは3ヶ月(どちらか先に迎えた方を優先)です。また、酸化に強く洗浄分散性に富んだ、グレードの高いオイルがお勧めです。
※なお、JA11型などの場合は、もともとクランクケース内を換気させる配管ではないので、極端に神経質になる必要はありません。

2つ目は、エンジンブレーキの効きがやや甘くなる傾向にあります。ノーマルだと、エンジンブレーキ時にサクションパイプから逆流していたフレッシュエアが、ピストンの上下動の邪魔をしていたのが、クランクデコンプバルブ装着後はそれがなくなるためです。

これは、驚くほどの変化ではないかと思いますが、初めて乗った時にビックリしないための、ちょっとした注意事項と思って頂ければいいでしょう。
※なお、元もとエンジンブレーキの効きが甘くなるチューニング(サージタンクの容量アップ、スロットルスペーサー、ヘビーウエイトフライホイールなど)と組み合わせた場合、極端にエンジンブレーキが甘くなることがありますのでご注意ください!!

最後に3つ目は、特に加速時や中高速での伸びが気持ちいいので、事故や取り締まりには十分注意してください(笑)。

クランクデコンプバルブ

  • JA71・11・12用 28,980円
  • JB23用 29,505円